ずっと、サムネイルの絵が気になっていたNetflix『ブラック・ミラー』。
【オムニバスで綴るSFシリーズ】って紹介文に書いてあったし、マッチ度も高かったし、続きものじゃないという気軽さと、3話しかないというハードルの低さ。
そして、SFっていうのに惹かれて観始めたのですが、すごい胸くそなのに、目が離せなくなり、3話あっという間に観てしまった。
イヤミス小説を読み終わったような感じに近い。
(読んだ後嫌な気持ちになるけど、ついつい読み進めてしまうミステリー小説)
わたしは小説家の桐野夏生が好きなんですけど、世界観もわからない、変な人しか出てこない桐野小説を読むのをやめられない、みたいな中毒性がありましたた。
人のどす黒い普段は人に見せない闇な部分って、どうしてこうも人を惹きつけるんだろうって、桐野夏生の『グロテスク』や『OUT』を読んだときに思ったけど、
『世にも奇妙な物語』を、極限まで胸くそにしたような感じですかね。
まず、第1話を最後まで観た第一声は、SFじゃないじゃん・・・。
でしたが(笑)
そう、第1話はSFじゃなかった!!
そして、さすがイギリスドラマなだけあって、救いがない。
最後の最後まで本当に救いがないんだもん。
あまりの救いのない話にびっくりした(笑)
いや、笑いごとじゃないんだけど、全然ないんだけどっ!
このコロナ禍で重い話は基本的に避けていたので、久々にこういう心理的にえげつない作品を観たっていうのと、こういうのが観られる心理状態になってるっていうことに自分的にホッともしています。
新しい薬、たぶん効いてる、よかった。
そして、2話目はSFだったけど、これも救いがなくて、あんな風に生きることに意味があるのか考えた。
3話目は、SFといえばSFだけどない未来でもないかなっていう感じの記憶にまつわるストーリー。
・・・というわけで、下記では個人的にシーズン1を観た感想を細かく振り返りたいと思います。
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第1話
『国歌』
"The National Anthem"
イギリスの王室のプリンセスが誘拐事件に遭う。
犯人からプリンセスの命と引き換えに、イギリス首相に出された交換条件は、口に出すのも憚れるような内容。
究極の選択を迫られた”立場”のある人間と、対岸の火事を見守る第三者な人々。
大学の心理学の授業のテーマとかに使われたら白熱しそうなエピソードです。
緊迫感と、様々な思いと、人の不幸に対する集団心理と。
哲学で有名なトロッコの話みたい。
こっちに舵を切れば1人の犠牲ですむけど、こっちに舵を切れば複数名の犠牲が出る・・みたいなのの込み入ったバージョン。
人間は、強くて、弱くて、打算的で、集団になると人の不幸を平気で笑いものにできる不完全な生き物だと改めて突き付けられて、見たくないものを強制的に見させられてるような拷問みたいで、最後の方は、あまりの嫌悪感に吐き気に襲われました。
人に性善説は適用されないなと。
どういうオチになるのか本当にわからなくて、目が離せなくて嫌悪感に襲われながらも最後まで観てしまいました。
45分足らずの短めの話なので、スピーディーに話が展開していったのもよかった。
最後まで観た感想としては、首相の決断に、わたしは個人的には賛同しない。
わたしはね。
なので、ラスト、首相の妻の気持ちすごいよくわかる。
観る人によって、ものすごく後味のかわりそうなエピソードだけど、とにかく救いがなくて印象深いです。
どんな話だったのか、一生忘れなさそう。
第2話
『1500万メリット』
1500万メリット""Fifteen Million Merits"
『ブラック・パンサー』でワカンダ(という架空のアフリカ方面の国)で、牛(?)を飼っていた役の人が主演でした。
この作品だけ1時間ぐらいというちょっと長めのお話で、じっくりラストに向かってじわじわ感情を殺してくれました。
第2話は、近未来的なSFチックな話。
だんんだん観ていくごとに話がわかっていくストーリーなので、あらすじはネタバレになるので、感想だけ。
わたしが感じたテーマは『格差社会』。
生きている意味が本当によくわからない世界で生きている人たち。
あの人たちの、楽しみは一体なんなのか。
お金の格差、職業の格差、男女の格差、容姿の格差・・・。
格差、格差、格差、格差・・。
とにかく、様々な格差に囚われる社会をこれでもかと描いていた。
世界的に見ても、今後も格差はなくならなくて、ますますひどくなっていく一方だと思う。
経済的なことだけに関しても、中間層が格差社会の上に居る人と下に居る人に散らばっていくなかで、上に居る人が下に居る人から搾取されていく仕組みは今後も変わらないと思う。
本人にその自覚がなくても、世の中の”快適”や”贅沢”を支えているのは、とうていその贅沢を享受できない人々の影の頑張りによるものだということをあんな風に表現するなんてすごいと思いました。
例えていうなら、一泊数百万のホテルのスイートルームの清掃をしている人は、その部屋には泊まれない的なことが世の中にはたくさんあって、そういうのをガンと突き付けられる。
クライマックスからの、ラストシーンはものすごい見応えがあってワカンダの人、すごい熱演でした。
オチの感想はネタバレになるので言えません(笑)
第3話
『人生の軌跡のすべて』
"The Entire History of You"
近未来。
メモリーチップを入れられて、自分の記憶を自分で振り返ったり、他人と共有できる社会。
fireTVStickのような機械で、自分の一日の記憶を簡単に目の前に映し出したり、パートナーや家族や友人に「こんなことがあったよ」と、映像で共有できる。
最近見た記憶をテーマにしたドキュメンタリーで、記憶はゆがめられるのが普通で、【記憶は記録じゃない】という言葉が印象深かったのですが、それを根底から覆すストーリーのエピソード。
ストーリー自体は、男女の痴情のもつれで正直どうでもいいような内容のエピソードなのですが、見ている間考えていたことは(もし、こんな社会だったら・・)ということばかり。
最後まで観た感想としては、記憶を本人が自由に操れる社会にメリットはないなーっていうことでした。
頑張って色々考えて、子どもとかペットとかの動向を親や飼い主があとから確認したりするぐらい?
犯罪は、証拠になるかなと思ったけど、残しておくだけじゃなくて、消すこともできるんでは、なんでもアリなんだよね。
犯罪加害者が、チップを盗むために更なる罪を重ねるトリガーにもなりかねないし、いろんなスパイやチップを巡った犯罪の温床になるのは必至。
天才のチップとか、政治家のチップとかお金になりそうなチップが山ほどありますので、わたし個人的には、あの社会にしたメリットが全く分からなかった。
例えば、一度お金を払って観た映画を何度も家で再生できるのは魅力的・・・だけど、その時の感情はやっぱりその時、その瞬間にしかないもので、後から観ても同じような感情にはならない気がするんですよね。
記録(ホームビデオとか、写真とか)で残しておく人生の物語は取捨選択が必要だと思う。24時間連続全番組録画はなぁ・・。
なんのために、ああいう社会になったのか、目的を知りたかった。
このエピソードを観て、人間の一番の心の防御機能って【忘れる】ってことなんだなって改めて思いました。
どう考えても、忘れるってことが本当に大事で。
いい思い出もだんだん記憶が美化されて、事実と違ういい思い出になったとしてもそれはそれで本人は幸せだと思うんです。
嫌な記憶も、完全に忘れ去ることはできないけど、忘れている時間を増やすことはできる。
そして、新しい記憶が入ってきて、上書きされて記憶の容量が満杯になったら、昔の記憶はたまに思い出すぐらいになってっていう一連の記憶の仕組みはうまくできてるなと。
だからこそ、脳は不完全で100%機能してないんじゃないかと思うほどでした。
脳が完全に活動したら、体の機能も脳に追いつけないし、メンタルが壊れるんじゃないかな。
このエピソードは、記憶の記録に振り回される人間を描いていて、悲しみが深かったです。
というわけで、3話分の感想をお送りしました。
シーズン1を3話、視聴完了して、何とも言えない気持ち。
映画の『JOKER』を観たあとも、状態としては、こういう状態になっていたんですけど、あっちは究極の悲しさを描いた感じで胸が押しつぶされそうな感じだったのですが、『ブラック・ミラー』では、逆にちょっと達観した感じになったというか。
絶望感と諦めをごちゃまぜにしたような気持ちでいます。
若いときに観ていたら、また違った怒りのような感情を持ったかもしれないけど、ある程度の人生経験と社会経験を踏まえた今は、建前が全部なくなったら、人(社会)ってこんなもんだよな・・。というところに落ち着いてしまっちゃっています。
もちろん、これはドラマで極端な例であり、素晴らしい心の持ち主の人もたくさんいるとは思うんです。
でも、このコロナ禍中でもドラッグストアーの店員さんにキレ散らかしたりとか、コロナ差別とか、悲しい話が多いじゃないですか。
コメディドラマの『モダン・ファミリー』で癒されているので、『ブラック・ミラー』で折られた心のバランスを保ちつつこのままシーズン2以降も観てみようかなと思います。
それでは、また。
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