桐野夏生、未読の本を読んでみよう第三弾『錆びる心』です。
こちらはウィキペディアを見ると初版が1997年の短編集です。
今、2018年なので、なんと20年以上前の作品となりますね。
全6編で構成された短編集で、初期の頃の作品なのでどぎつさも桐野作品にしては少な目で非常に読みやすかったうえ、主観で語られる1人称が多い桐野作品において、三人称の小説はなんだか新鮮でした。なんだか桐野作品なことを忘れる感じだったかも。
1人称作品の方が人間の嫌な部分が浮彫りになって深いところに迫れるので、わたしは好きなのです(笑)
ゼロから色々なシチュエーションを考えて作る小説を書くという作業で、短編は様々なストーリーをたくさん考えている点で本当にすごいと思います。
桐野夏生ならこの短編の全てのストーリーを長編で書くこともできると思う。
あえての短編というスタイルで、その分色々な話が読めてお得感はあります(笑)
ちなみに、こちらの短編集は20年以上前の作品とは思えないほど、内容に古さを感じさせませんでした。
今読んでもなんら問題ないというところに作者に先見の明があるのか、人間の本質は時代が変わってもそれほど変わらないのか。
特に、1話目の『虫卵の配列』という作品は個人的に一番秀逸でした。
『虫卵の配列』というタイトルもさることながらオチもよくて、このページ数でこんな風に話を展開させられるなんて!という驚きとともに、本当に現代的なストーリーで、この作品だけでもいいので読んで欲しい!と思うぐらいでした。
話としては、女二人がカフェでお互いそれぞれの恋愛を語る話で、一言でいうと『ガールズトーク』なのですが、『ガールズトーク』っていう感じではないです。小説です。
なので頭が混乱してきて、おかしなことになったままラストを迎えました。
短編としてはかなり傑作だと思います。
あと、他の収録作品は、人生も折り返しを迎えた男の狡猾さと弱さを描く『羊歯の庭』、酒で記憶を無くす男が自分の無くした記憶を聞きに回る『ジェイソン』、こちらの作品は今すぐ世にも奇妙な物語で実写化できそうな雰囲気でした。
そして、荒れた庭フェチの男の末路を描く世界観が独特な『月下の楽園』、ヤクザに憧れる不思議な男の行動を描いた『ネオン』の4編に加え、表題作の『錆びる心』です。
この表題作の『錆びる心』は、未読の桐野シリーズを読もう!の1作目で読んだ『だから荒野』に設定が似た内容の作品でした。長年専業主婦をしていた主婦が家を飛び出し、変わった家族に出会う話です。この作品も最後のオチが全て持って行って読後感はすごく不思議でした。
個人的に【錆びる心】とは、上手い表現だと思いました。
わたしが、【錆びるもの】ってなんだろうなと考えて、一番初めに浮かんだのが手入れのされてない吹きさらしに置かれた古い自転車だったのですが、自転車って錆びついて、キーキーうるさくてもタイヤがパンクしてなくて、部品がちゃんとついていればよっぽどのことがない限り走ることはできます。
ただし、新品のようにストレスなく走ることはできなくて、錆びついてることによる見た目の劣化とか、機能的な不備とかなんかしらの不具合はあるからいつもそのことが気になったりする。
一念発起して錆びとりしても新品のようにはいかなくて、その状態も一時的で。
心も一度錆びてしまったら、いくら錆びとりしても新品には戻らない。
しかも錆びって、急に明日錆びるわけじゃなくて時間をかけて徐々に錆びていくから、心が錆びついていく感じ、すごいわかるって思ってしまいました。
主人公の錆びつく心を描いた短編ですが、最後まで読むと『だから荒野』と違う部分は、自分で自分の心を錆びつかせてしまったことかな。
最初は似ているなと思ったのですが、描かれてる本質が違うと思いました。
そういったわけで、未読の桐野作品を読もう! と思って買ってきた三冊もようやっと読み終えました!
我ながら遅い、読むの遅すぎる(笑)
もうちょっと読むのが早ければ、もっと色々書けるんだけどなーと思うのですが、本を読むのも割と体力がいるので、若い時にもっとガリガリ読んでおけばよかったと思います(笑)
ストレス解消の遊びや娯楽が(体力と相談しながら)にどんどんなっていってます。
休日には一日に映画を5本ぐらい観たうえ、オールで海外ドラマを観て、通勤中は居眠りなんかせず、ずっと本を読むとか20代前半ならやれてたかもしれない。
やりたいことはあるけど、第一優先事項が【体力】なので、ストレスもたまる一方です(笑)
感想とは脱線しましたが、そんな中でも、ちまちま本を読んで感想も書きたいと思います(笑)
それでは、また。
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