旧ソビエトで起きた現在地球規模最大の原発事故を描いたHBO制作リミテッドシリーズ『チェルノブイリ』を視聴しました。
リミテッドシリーズで全5話。
ドラマとしては短いタイプのリミテッドシリーズです。
最初から最後までテンポよく話が進み中だるみなどは全くないです。
世界で唯一の戦争による被ばく国であり、2011年には津波による原発事故という事例があった国に生まれ育ったものとして非常に重い内容ではありましたが観てよかったと思いました。
制作がHBOというアメリカのケーブルテレビの会社のものなのでソ連と長きにわたり冷戦状態にあった国ということと、ドキュメンタリーではなくあくまでドラマということで登場人物のキャラクターがどういう人物だったのかは本当は不明なこと。
死者の
そして、存在しなかった女性の科学者のキャラクターなどがストーリーを深めるために登場していたりと全てがこの通りではないということは大前提でのことにはなりますが、非常に丁寧に作られた作品であったことは間違いないと思います。
少し前に観ていた『ラスト・オブ・アス』前半と同じ監督ということで、演出方法も似た感じがしました。空気感というかセリフではなく絵や間で見せるところ。
実際の残酷なシーンもみなまで見せない手法は相変わらず演出の妙だと思います。
『チェルノブイリ』U-NEXTで配信中
<広告>
科学的な知識もなく、チェルノブイリの事故については何も知らない(さすがにそういうことがあったことぐらいは知っていた)のでわたしにとっては非常に脳を使うドラマではありましたが、わたしなりに最後まで頑張りました。
作品から事故の被害者に寄り添う気持ちなどを感じていたので最後まで見きることが出来たと思います。
そういったわけで科学的な原子力発電所の仕組みや、事故が起きる原因などに全く思い至らないわたしが主に見ていたのは命をも脅かす事態が起きた時の人間の愚かさです。
特に権力者の保身には反吐が出るほどでした。
わたしは長年日本の経済社会の低層の部分で働いており、いわば社会からみれば透明人間のような存在です。
権力者の位置にいたことはなく低層から組織を眺めていましたがこんな事例は大小あれどよくあることなんです。
日本のおおかたの会社組織のトップは男性が占めてる割合がかなり高いし、今までも女性が仕切る会社には勤めたことがないので、正直なところ
(どこの(国の)男も同じだな・・・)
って思いながら虚無の目で観ていました。
特に中途半端な立ち位置の権力者。
自分の野心のために無理な要求を部下に威圧的に強行する、それで被ったトラブルに対して自分より立場の上の人には平気で保身バリバリの嘘をつく、さらに事態を隠そうとする。
それで責任取るならまだしも取らないし、取れないんですよね。
そして、一番思っていたのが、
「こいつらは死にたいのか」
ということです。
いくらお飾りの管理職だとしても原発の危険を知らないはずはないのに、現場でごちゃごちゃしていたら被害が拡大するのは何も知らないわたしでもわかる。
地域の人や従業員のことは一切考えていないとしても自分が死ぬの怖くないの? という、あんな状況だからこそなのか強烈な正常バイアスが起きる脳のバグが不思議で仕方なかった。
いくらパニック状態だったとしても、もう無理なことは一目瞭然じゃん。
あと、そんな状況でも上長のいうことになぜか従ってしまう人たちも。
わたしがあそこの作業員なら一刻も早く逃げるなと思った。
家族に危険を知らせないといけないし、パワハラ上司のごり押しでこんなことが起きたことを誰かに伝えないといけないし。
死んだら伝えられないもん。
そのための末端だし、そんなに責任感はない。
もし、わたしがあそこの管理職なら…と思ったけど、あの状態であのようなことは絶対にわたしはしないのでちょっとよくわからなかったですね。
例えば、後ろ暗いところがない状態で同じようなことが起こったらそのまま報告するし。
安全を第一にするわ。自分も死にたくないし。
そして、ソ連が社会主義なことを鑑みたとしても、あの場で危険を顧みずに事態を把握しようとした職員は偉すぎると思いました。
ドラマ後半は、事態に巻き込まれた地域住民と、収束に駆り出される一般市民に胸が痛かったです。
もちろん福島の除染に関わった人たちにも思いを馳せました。
医療従事者はもちろんのこと、避難区域に残されたペットの駆除担当の人もつらかった。
でも、個人的に一番しんどかったのは炭鉱の親方のくだりですね。
おそらく、火力発電に使われるかロシアという寒い地域柄冬の暖房にまだ使用されていた石炭の炭鉱夫たちが新しいエネルギーと発電の方法として採用された原発の事故の後処理をさせられるという地獄。
綺麗なスーツで王子みたいな見た目の人が、原発で作業をしてほしいと炭で真っ黒な現場の人に申し渡すシーンの時の親方の何もかもわかってる感じ。
親方についていく人たちも。
スーツを汚されても文句も言えないでしょう。
日本の政治家がまっさらな作業服で被災地を訪問するのと似たようなところはありますが、ポーズだけでも着替えてるだけマシなのかな。
炭鉱夫たちが迷いなく現場に向かったのは使命感とかじゃなく、今までもそういう生き方をして生きてきてこれからもそういう風に生きていくしかできない。
強さであり弱さでもあるなと胸がきしみました。
『チェルノブイリ』は一つの歴史でありながら、人間ドラマとしても非常に力のある作品でした。
些細なウソやちっぽけな野心で罪のない何万人もの人たちが払わされた代償が大きすぎました。
今世界でどんなことが起きて、どんな状態になっているのかは実際のところは誰にもわからない中、明日の自分が代償を払わされるのかもしれないということは肝に銘じておきたいと思います。
せめて世の中を動かす権力者ひとりひとりが、せめて下々の者に誠実であるように願って。
というわけで、それではまた。
『チェルノブイリ』U-NEXTで配信中
<広告>