たま欄

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【本】桐野夏生『バラカ』3.11東日本大震災。これはリアルなのか虚構なのか。とにかく生き抜け!

読み終えてから、感想を書くまでだいぶ経ってしまいました。

 

この作品自体の内容が難解だったのと、テーマがわたし個人にとっても日本にとっても非常にデリケートな問題だったため、気持ちを落ち着かせるまで時間が必要でした。

 

桐野夏生の作品を中心に小説を読んでいるものとしての、『バラカ』率直な読了直後の感想は、

 

桐野夏生が、一般受けとか一切考えず、とにかく好きなように震災も含めた内容の小説を書いたらこうなった。

 

っていう感じでした。

わたしは、桐野夏生が殴り書きした文章をただひたすら享受しただけというか。

 

なので、Amazonレビューも、かーなーり賛否両論ですね(笑)

わたしは、桐野夏生の世界』にどっぷり浸かれて満足したけど、小説としては破たんしている部分もあるっちゃあるので【否】の人の言いたいことももちろんわかりますが、個人的には、この作品はそういうのじゃないって思ったので、つらつらとその旨を書いていきたいと思います。

 

バラカ

バラカ

 

 

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~あらすじ~

東日本大震災で福島の原発が爆発し、放射能警戒区域で動物の保護ボランティアをしていた自称【爺さん決死隊】の中の男性が発見した一人の少女。

少女は「バラカ」という言葉を発し、その後保護され「薔薇香」として生きることになるが、薔薇香には、自分も知りえない壮絶な過去があった。

 

ひとりの少女「バラカ」を取り巻く、様々な大人たち。

日系ブラジル人の夫婦、「失敗のサイクルを断て」と訴える新興宗教のカリスマ教祖、子ども欲しさに人身売買に手を出す女、その女の友人、欲にまみれた不気味な葬儀屋、震災を金儲けや、政治に利用しようとする輩たち・・。

そして、震災により人生が変わってしまった、たくさんの人たち。

バラバラに生まれバラバラに生きてきた人々が震災と「バラカ」という一人の少女によって繋がれていく・・。

 


 

~私の「震災履歴」は、この小説と共にありました。
重力に逆らい、伸びやかに書いたつもりです。
まだ苦難の中にいる人のために、ぜひ読んでください。 桐野夏生

 

・・という、桐野夏生の言葉がこの作品の全てなんだと思う。

 

『震災履歴』とは、この小説の中で出てくる言葉で、様々な事情で出会った人たちの、震災後の自己紹介的なものです。

何故、自分は今ここにいるのか話すのに使います。

 

わたしにも、ささやかな『震災履歴』がありまして。

本当に震災のど真ん中に居た人に比べればたいしたことはないし、命も取られていない。

ニュースにもなりはしませんでしたが、行政からわずかながらの見舞金をもらう程度の被災はしました。帰宅難民にもなり、自宅から避難せざるを得ず費用がかかったので、見舞金は多少の足しになり、助かりました。

震災からしばらくの間は横になると揺れている感覚が抜けず、元々眠りが浅いのにちょっとした物音で起きて不眠になり、繰り返し流される津波の映像ばかり見ていて、地震速報に逐一怯えていた。

今思うと、震災うつ一歩手前の精神状態でした。

あれ以来、ヒールの靴は一切やめ、充電器、充電ケーブルは常に携帯。

スマホも常に充電が100%に近い状態じゃないと心配で落ち着かなくなり『何かあったときのため』のものを肌身離さず持ち歩くようになり、荷物が増えました。

たいした被災じゃなかったわたしの8年経った現況です。

 

被災地の人たちで傍目では立ち直ったように見える人でも、心の中は聞いてみないとわからないし、聞いてもみても言わないかもしれません。

作品内で語られる『震災履歴』は様々で、だけど本当かどうか確かめる術もなく、本人が言う内容が全てです。

上記に書いたわたしのささやかな『震災履歴』も全くの嘘の可能性もあります。

 

この作品は、そういう現実と虚構が入り混じった不思議な設定で、そこに桐野夏生特有の、居そうで居ない、居なそうで居る気持ちの悪い人たちがたくさん出てくる。

どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。

全部嘘の気もするけれど、実際問題、2011年3月11日に津波が起きた大地震と、その影響で福島の原発が壊れて放射能が漏れたということは事実なので、頭が混乱する小説です。

 

桐野夏生の描く人物は本当に人の嫌な部分を表面化してくるし、みんな言いそうで言わない、心で思っていても口に出さないギリギリの嫌な言葉を口に出して言ってくるので、相変わらずみんな気持ち悪いです。

珍しく作品内にはいい人も存在しているんだけど、嫌な奴は実際に居そうなのに、いい人はなんとなく空想の人物のような気がしてくるから不思議です。

そして、今自分が身を置いている(心で思っていても口に出さない社会が虚構なんじゃないか)っていう気も、ずーっと読んでるとしてくるんですよね。

そういう桐野ワールドを体感する小説だったと思います。

震災がテーマの【ノンフィクション】ではないので、これはこれでアリだったんじゃないかとわたしは思う。

あまりリアルな世界に描くと、色々なことが浮き彫りになって悲壮感も出るし、震災の現実感で辛くなってくるところを、敢えて余計な話を散りばめることで小説としての体面を保ちつつ、桐野夏生なりの震災が引き起こしたディストピアや、震災がなかったら現れなかった人の黒い部分なんかも描くことが出来た。

わたしは、桐野夏生心のままに書いた『震災履歴』をただ享受しただけなので、感想とか本当にないんですよね。

こんなに文字数を割いて『アリかなしかで言えばアリ』ということしか今まで書いてない気もしてきたし・・(笑)

 

感動する人もいれば、つまんないと怒る人も居て、誰かに感情移入する人もいれば、何も思わない人がいるっていう、本当に大衆受けしない作品だとは思います。

わたしは、ただただ興味深かったかな。

 

あーーーー、あの感じに似てるかも。

 

日曜の昼間にやっている、ドキュメンタリー番組あるじゃないですか、あれのちょっと不思議な生き方している人のタイプのやつをボーっと観てしまった感じ。 

震災の闇を抉る!とか、そういう大げさなことじゃなくて、普通に生きている人がたくさんいる、気持ち悪い社会の中で大きな災害が起きてしまったら、こんな感じになるのかもなぁってうっすら思う程度の作品。

ただ、小説を読んだのにドキュメンタリーを観たような不思議な感覚はある。

 

しかし、ものすごく印象には残っていて、多分内容も登場人物もストーリーも今後忘れない自信がある。

そして、桐野小説を読むと湧いてくる謎の生命力。

桐野夏生が、好きなように文章を書いて発信しているものを読んでいるだけで、脳から変な物質が出ているのかもしれないし、いつも作品を読んでいると『とにかく、なんとしてでも生き抜け!』って言われている気になって、特に『バラカ』はその傾向が強かった。

生に執着の薄いわたしが定期的に桐野夏生の作品を読みたくなる所以かもしれない。

とりとめのない記事になってしまって申し訳ありませんが、作品自体もとりとめがないので、ここで締めさせてもらいます(笑)

 

また、次回作にも期待しています。

どんなに突飛な作品でも多分読みます(笑)

まだまだ新しい桐野ワールドを体感したいです。

 

 というわけで、それではまた。

 

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バラカ 上 (集英社文庫)

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バラカ 下 (集英社文庫)

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