たま欄

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『エルピス』完走! 絶望の中の【希望】を教えてくれた素晴らしいドラマでした。

年末年始の少ないお休みに撮りためておいた『エルピス』をまとめて最後まで観ました。

 

元々『エルピス』を観るきっかけとなったのは下記の記事の通りシンプルに長澤まさみが見たかったから」というものでしたが、ここから波及して同じ脚本家の朝ドラカーネーションと、こちらも『エルピス』のように隠ぺい体質の組織を描いた『今ここにある危機とぼくの好感度について』(共にNHK作品)も観ることになったので、影響が計り知れないドラマになりました。

 

www.meganetamago.com

 

ちょうど感想を書こうと思っていたところに、はてなさんのお題キャンペーンも目に留まったのでこれは書くしかないなと思って筆をとった次第です。

 

最近あまり文章を書くということをしていないので、手探りで書いています。

 

今回は『FODで観るべき作品を教えて!』というお題なので、まだ未視聴の方に言いたいのは、「脚本家の思いを、演者とスタッフが心を込めてそれを視聴者の心に訴えようというのが非常に伝わってくる作品だった」ということはまず言いたいと思います。

 

演技の真剣度はもちろん、カメラワークや話のテンポなどと気の遣い方がすごかったなと振り返ってみても思います。

 

冤罪の闇。

正義感と保身の狭間で日々揺れ動く人々。

正義感を貫きたくても貫けない苦しさとその状況に対する慣れ。

 

わたし自身は権力を持っていないので、保身のために見ず知らずの人を死刑に追いやってもそのことを忘れて笑って暮らせる気持ちはわかりませんが、ここまで長く生きていれば、そんなことは煩い蚊を手で叩いたのと同じ程度のことにしか思わない人間が存在することもわかります。

 

そういう人でも、身内の死には涙することも。

そしてそれがドラマ内で直接的ではなく肌感覚でわかるようにうまく表現されていた。

 

『エルピス』内の印象深いセリフとしては上記『今ここにある危機とぼくの好感度について』でも同じようなセリフを聞いた気がするのですが、主人公の恵那(長澤まさみ)が「本当、権力持ってる人たちって見下している人に対して想像力ないよね」っていうセリフがあって、テレビでこのセリフを放送することに意義があるとすごく思っていて。

 

で、これ見下されている側にしか響かない言葉だと思ったんです。

 

今の政治なんかもそうなんですけど「なんでそういう方向に?」ということも多いじゃないですか。

それをドヤ顔で発表する心理ってどうなってんの? っていう。

 

今までは、そういう人たちからしたらわたしなんかは「奴隷と思われてるか、目に入っていない」と思っていました。

そういう側面ももちろんあるんだろうけど「想像力がない」っていうのがものすごくしっくりきたんですよね。

「奴隷とも思っていないし、目にも入ってはいる。でも、わたしがどんな家で何を食べて暮らしていて、どんなことに喜びを感じて生きているのかとかはふわふわしていて想像できない」

 

ってところなんだろうなと。

 

それを考えると権力者たちって、小説やエンターテイメントのフィクションをどういうい風に読んでたり、観たりしているのかすごく気になります。

 

面白いと思うのだろうか。

面白いとは思うけど、常に他人事なんだろうか。

 

そのほかには、

 

「おじさんたちのメンツとプライドは地雷なのっ! 死んでも踏まないように歩かないといけないんだよっ!!」

 

は、覚えている人も多そうなセリフです。

 

地雷でありながら、死んでも踏まないように歩くという矛盾した表現ではありますが、矛盾した表現であるからこそ、どれだけの人がおじさんのメンツとプライドを守った行動を取りながら現代社会が成り立っているかということに思いを馳せずにはいられなかったですね。

 

メンツとプライドを守ってもらいながら生きるのって本当に気持ちいいんだろうなーって思っていました。

脳内麻薬すごいんだろうなって。

 

だから権力が欲しいんだろうし、死んでも捨てたくないし、ないと生きていけない。

 

ちなみに『エルピス』は一つの冤罪事件に絡んだストーリーではありますが、その参考文献のひとつとされているこちらの実際の事件である『足利事件』のノンフィクションは絶対読んでほしいほどのお勧めなのでぜひ読んでください。

わたしもジャケ買いして再読したいと思います。

サンプルをご覧になっていただければ絶対に読みたくなると思います。

 

そして、そういったしがらみと対峙する一介のテレビ陣の人間関係が本当に面白かったです。

 

時代劇とか二時間ドラマ系に出てくるようなわかりやすい悪人ではなくて、そこまで悪ってわけでも組織に一人か二人、もしくはもっとたくさんいる会社の嫌な奴みたいなキャラクターが何人か出てきていてこういうキャラクターを創作で描くの難しそうって思っていました。

 

性格はク●だけど、絶対結婚してて出世もするタイプなんですよ。

こんな性格悪いやつと結婚するなんてありえないと思うタイプの人。

 

未見の人でこれから観る人はそれが誰なのか、上記のセリフがどういった状況で言われたものなのかぜひ注目してもらいたいと思います。

 

というわけで、以下はネタバレ感想になります。

 

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途中、涙が出たシーンは何度かあったんですがまとめて観ていたこともあってやっぱりクライマックスらへんがかなりグッときました。

 

村井がスタジオで暴れているシーンと、チェリーさんと松本さんがカレーとショートケーキを食べているシーンと、エピソード1に登場した松尾スズキさんのシーンです。

 

村井が暴れているシーンは本当につらくて、今のご時世「声をあげる人が変人扱い」される世の中で、波風立てないで暮らすことがいいっていう風潮があるなか、すごく象徴的だと思いました。

 

わたしも余計な波風たてないで、深彫りせずに平和に暮らしたいという気持ちはすごくわかるんです。

日々生きることで精いっぱいだし、ほかのことに時間や感情を割かれたくない。

見えないものは蓋をしておけばいい。

時間がたてばみんな忘れるって思っている。

 

でも、忘れようとしていることが人生の負担になっていることってみんなそれなりに絶対あって、特に罪悪感は根が深い。

 

そもそも罪悪感を持たない人種の人もいるから、罪悪感を持ってしまった時点でそこに縛られているものだったりするので、罪悪感を持つ人種の人が罪悪感を持ってしまったらそれはもう人生をむしばんでしまうと思う。

 

そんな罪悪感を閉じ込めていた箱のふたを開けてしまった若者の岸本を演じた前田郷敦(まえだごーどん)くん、非常に素晴らしかったです。

序盤のふわふわした今どきの若者の演技から葛藤して成長していく姿に目が離せなかったです。

 

前述の通り、退社した日の廊下で松尾スズキに話しかけられたシーンは目頭が熱くなったし、あれこそ希望だと思った。

 

そしてラストシーンがチェリーさんがショートケーキとカレーを松本さんにふるまう無言のシーンで思い出すだけで鼻がツーンとなる。

 

何度チェリーさんが自分の誕生日を呪ったのか、カレーをみるたび、ケーキをみるたびに思い出したか。

そして、自分を呪ったか。

自分の中でそれこそ地雷であり、トリガーになるであろうきっかけのものを少しの間だけでも解放してあげられたのかなと思いました。

松本さんとチェリーさんの何十年間は戻ってこないけど、チェリーさんにとっての【希望】が松本さんだったことが象徴されたシーンだったと思いました。

 

エンドロールではケーキを食べながら泣くチェリーさんでしたが、最後は笑顔だったので本当に良かったと心から思えました。

 

最後、蛇足ですが上記、そのへんに居そうな嫌な人のベスト3は、岸本の母、フライデーボンボンのメガネのちょっとえらい立場の人、そしてニュース8の恵那の同期の男です。

 

ボンボンのメガネはかなり嫌でしたね(笑)

 

岸本を騙した警察官は惜しくもランク外でしたが、この人はそれでも罪悪感をもっている部分が少しでもあると判断したからランク外にしました。

若い時はそれでも正義漢に溢れて警察官になったんだろうなとなんとなく思えて、彼は彼でああいうふうな生き方しかできないのを少しかわいそうに思った。

でも上記三人はふてぶてしすぎる。

 

わたし自身ももちろん善人っていうわけでもなく、正義感にあふれているわけでもないし、日々普通に生きているだけで、世界がよくなることを願ってはいるけれど誰かを助けたりとかそういうのもしていないし、したくないとは思っているけれどたぶん差別もしちゃってるし、仕事も別に誰の救いになっているというわけでもないです。

さすがに誰の役にも立ってないとかいう子どもっぽいことは思わないですが、潰れても大した影響のない会社に勤めている替わりが効く人間なことは確かです。

 

そもそもそんな社会的に重要な人物とそうじゃない人物っていう考え方がもうダメで、わたしもいつ権力者に死刑になっても構わないとなにかの代わりに差し出される存在だという怖さもありました。

 

けれどドラマの通りこんな弱肉強食の世界でも、わたし自身見下されている側のたいした仕事をしてない人間であっても、誰かに心から信頼されている存在になることができたらそれはそれで人生として成功なのかもしれないとは思えたことにはすごく意義と意味があったし、わたしへの希望にもなりました。

 

本当に見ごたえのある素晴らしいドラマだったと思います。

非常に面白かったです。

 

ドラマに関わったすべての方々に感謝をこめて。

 

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