グロテスク(下) 桐野夏生著 読了しました。
グロテスク(上)の感想はこちら ↓ ↓
『グロテスク』をやっと読み終えることができた。
上巻は無心で読んでいたが、下巻は上巻とはがらっと変わり、
読んでいる間に、様々な感情が押し寄せてきて、
今わたしは、とにかく悲しい。
殺人事件の加害者と被害者の語りでがメインで進み、
こちらも上巻と一緒で全て主観な為、
どこまでが真実で、どこまでが虚言なのかわからない。
下巻では、それぞれの登場人物売の敵意や悪意が、
社会と男性と自分自身にまるごと向けられている。
グロテスクに登場する主要な四名の女性、
名前のない地味な女【わたし】、
【わたし】の妹で、美貌という武器を持って生まれた【ユリコ】、
【わたしの同級生】で優秀な【ミツル】、
同じく同級生で努力が本人の望む結果につながらない【和恵】。
もし、グロテスクを読んだ女性の中で、
この四名に一ミリも共感することのできなかった女性は、
多分とても幸せな人生に恵まれている人だと思う。
だいたいの人は、【わたし】であり、【ユリコ】であり、
【ミツル】であり、そして【和恵】でもあると思うからだ。
決して、不遇ではなかった四名の女性が、
それぞれにもがき、幸せを求め続けた結果の不幸が切ない。
エリートOLは、なぜ夜の街で体を売り、
そして殺されなければならなかったのか。
特に東電OL殺人事件の被害者をモチーフとして描かれた登場人物、
和恵の語りは、悲しすぎて途中泣きそうになった。
家族問題、会社、夜の仕事と、悲しい場面は色々あるのだが、
わたしの悲しさを特に誘ったのは、和恵のこんな一言だ。
~仕事ができたって、女として可愛くないのだったら負けってことなのよ。
あたしは負けたくないの。~
優秀な女に生まれてきたことにより、余計な荷物を背負ってしまった、
勝つことにこだわり過ぎて、道を踏み外した和恵。
人から評価されることだけに価値を見いだし、努力もした。
社会に出てからは、男性社会に真っ向から挑んだ。
そして、あえなく敗北し、それでも男という性を渇望して、
必死に生きた不器用で、孤独すぎる女の末路。
全く希望のない、闇ばかりの作品なのに、
何故か必死に生きろと励まされた気がする。
桐野夏生がこの作品で訴えたかった女として生きる悲しさを、
どこまで私が受け止められたのかはわからない。
ただ、自分自身に向けている敵意や悪意は、
これを機に少し緩めてみてもいいかなとは思えた。
<スポンサーリンク>