ちょっと前、中年のおじさんが価値観をアップデートしていくドラマが二本、ほぼ同時に放送していた時期がありまして。
TBSで放送していた『不適切にもほどがある』と東海テレビ制作フジテレビ系で放送していた『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』です。
通称『ふてほど』と『おっパン』(以下、略称で表記)。
ふてほどは脚本家宮藤官九郎のオリジナル脚本で、おっパンは漫画が原作です。
両方ジャンルでいえばいわゆるホームドラマであり、現在の多様性の価値観と対峙するおじさんたちの奮闘がメインで描かれるもので、わたしは世代的にはおじさんたちに近い年齢なため、上記おじさんたち世代が無双していた時代に女として生きてきたので、氷河期という時代的背景、地方生まれ、親がそもそも男尊女卑思考で男のきょうだいありという環境的にもナチュラルにいろいろとそういう面ではおじさんたちがやり玉に挙げられているような価値観に嫌な目に遭わされてきた側として視聴することになりました。
ふてほどは日本人男性で社会的にも成功者であるように客観的には思えるクドカンのオリジナル脚本、おっぱんはネームと作画を女性二人で制作されていてドラマの脚本も50代の女性ということで、昭和生まれの男性から見た令和と、昭和生まれの女性から見た令和の差はやはりドラマから感じはしていました。
前者は【現代ではこういうのはNGだからしてはだめ。NGを覚えていこう】と主人公が学ぶ作りだったのに対し、後者は【今まで我々が辛い思いをさせてきた人たちのためにも、これからはそういう人を出さないように内面から変わるように努めよう】と主人公が奮闘する内容だったので、根本的なところでいえば似てるようでいて全然別物といえば別物だったようにも思う。
ただクドカンは日本の脚本家の中では女性ファンも多いとはいえ、このテレビ離れの時代にクドカンと近い世代の男性視聴者が、脚本家で日本のドラマを観る数少ない脚本家だと思うので、同世代男性に向けてのメッセージがたぶんにこめられている気がしていた。個人的には。
そのためふてほどの主人公、小川市郎は昭和時代からタイムスリップしてきたクドカンの父親世代の人なんじゃないかなーって思ってたんだよね。
市郎は実年齢2024年で90才近かったよね確か。
クドカンは1970年生まれで今年54才なので市郎は自分の父親かちょっと上の年齢だと思うんだ。
ごりごり昭和10年代生まれの市郎世代に育てられた昭和の男の価値観を植え付けられた自分たちっていう。
同世代の男が好き勝手やるのはさすがに反感くらうし、それに対して拒否反応が出たり自分はここまでひどくないっていう甘えも出るからさらに上の世代。
こういう時代も楽しかったな、でももうダメだ、色々やめようぜ!!みたいなスタンスの内容だなと思いながら観ていました。
で、観てるこっちにも昭和の50年代のおじさんが令和にタイムスリップしてきたってことであらゆる無礼が「しょうがない」って思えた部分もあったのでそこの設定はうまかったのかなとは思うんですよね。
なんでしょうがないって思えたかというと、現代のおじさんって昭和→平成→令和って生きてきてるじゃないですか。
時代が急にアップデートされたわけじゃなくてWindows95がアップデートを繰り返してWindowsが11になるぐらいには、30年ぐらいかけて徐々に緩やかに時代は変わってきていたのだし、その期間に生きてきた人には等しく同じ時間が流れていて、もし市郎が現代のおじさんやおじいさんだったら昭和の価値観で押し切るのは全然説得力ない感じになってしまっていたと思う。
実際、現代人もそういう価値観は社会的にダメなことはわかっていてわざとやっていたりするし、だからこそリアルで未だにセクハラ、パワハラ、差別を表に出している人には男女構わずそういう時代を生きてきたのにって軽蔑はしている。
でも、タイムスリップだったらさすがにしょうがないですよね。
今逆に自分が戦国時代とかにタイムスリップしたら平安時代の価値観に自分合わせるの大変すぎるし。
そういう設定のうまさと過去と現代の絡み合わせの妙を楽しむドラマだったかなとは思います。
実際市郎は、順応性も高くスマホにも興味津々ですぐ使いこなせるようになったし、現代のルールにもそれなりに馴染んだし、昭和当時の価値観がダメな理由がわかれば受け入れて自分をすぐさま変えていく度量もあった。
ドラマとしてはストーリー展開に共感できる部分とできない部分がやっぱりあって、さすがにそれは違うんじゃない?と思う部分もあったし、でもそれも多様性のひとつだから、どっちがいいとか悪いとかじゃないっていうのも現代の価値観じゃないですか。
人を傷つけるとか犯罪がらみでなければ個人の好き嫌いや生き方の問題に第三者が口を出すな、むしろほっとけっていう。
ストーリーは共感したりしなかったりだったけど、市郎の娘の純子ちゃんを演じた女優さんをはじめキヨシ役の子とか若手の演技が光っていて、若者が元気でキラキラしていたので未来を感じられてよかったっていう母通り越して祖母目線みたいになってしまったんですよね(笑)
この子たちが現役世代になれば、日本もそれなりにいい国になるような気がするから、まっすぐ生きてほしいって最後あたりは思っていたし不景気で辛いことも多い時代だけど、今の時代の若い子がうらやましかった。
世代的に人数も少ない若い子たちが全員輝ける未来のためにも、大人たちが邪魔をしてはならず、そのために価値観のアップデートがあるという風にも思えたので、わたしもまた一つ成長できたかなと思ってます。
そして、次『おっパン』について。
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『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』は、営業でバリバリ汚れ仕事をしてきて家父長制に染まっていた沖田誠(48才)が、家族に対する愛がきっかけで改めて自分の凝り固まった価値観を見つめなおし、家族や会社の部下との関係を徐々に再生していく物語なのですが、フィクションだからしょうがないし、ふてほどの市郎もそうだったんだけどさ、「こんな素直なおっさんいるか?w」っていうファンタジー味はあるにしろ、「まずは自分の周りの大切な人を傷つけないために意識改革始めませんか?」と言われている気がしたし、主人公がそういう風な行動でうまーくストーリーを展開させて、見てる人にものすごくわかりやすく伝わるドラマだったなと思います。
繊細な心を持っているゆえに不登校になってしまった高校生の息子をきっかけにストーリーが展開していくのですが、父親として子を大事に思っているからこそ理解したい、子との関係を修復したいという愛情が常にベースにあり、それが友人にも会社の部下にも同じようなスタンスで主人公が向き合うので、果たしてこんな愛情溢れる素直な人が家父長制どっぷり差別おじさんになるのかという疑問が再び出てきてしまうのですが、そこはフィクションの良さというのもあるし、そういう時代でそういう教育だったから本来であればそういうキャラじゃなくても男子たるもの!父たるもの!上司たるもの!っていう固定観念にとらわれていたっていう設定にも思えるし。
そして、ふてほどでは問題行動する側に焦点が当たっていましたが、おっパンでは主に差別や世間的に揶揄される側の気持ちに焦点が当たっていて、誰の気持ちにも寄り添ってくれる感じがじんわり来ていました。
わたしもこうみえて繊細なところがあるのでそこは嬉しかった。
特に印象深かったのは主人公の沖田誠が自分より上の世代のゴリゴリジェンダー差別先輩に「自分たちが過去に嫌な目に遭わせてきた人たちにはもう謝れない」と訴えかけるシーンは(そうなんだよ、今は寛容じゃない時代だからとか今はやっちゃダメとかそういう時代の話にしてほしくないんだよ。なんでダメか。人が傷つくからだよ。傷つくからやめてって声を上げ続けてきたからだよ)って泣きそうになりました。
最後にラスボス的に、自分の価値観を信じ世間の冷たさを淡々と説き個人の思想を認めないキャラクターが登場し、本当にむかつきました(笑)
それが世間の総意だとはいいませんが、社会は厳しく冷たいものという象徴としては的確だったかも。
そのラスボスのおかげで、
世間に合わせて好きなことを我慢して生きる人生もそれはそれでアリ。
とも思えたのが自分でもちょっと意外だったけど、世間の荒波に逆らって自分の気持ちに素直に生きるのも自由だし、その自由を内心認めないとしても、とやかく言う権利は他人にはないから干渉しないっていうちょっと突き放した感じが本当はお互い楽なんだと思う自分の思考がより強まった。
受け入れるとか受け入れないとかよく議論されてるけど、実際は烏滸がましすぎる話だよね。
どの立場からもの言ってるのって感じだし。
とりたてて自分と違う人や理解できない人と仲良くする必要はないけど、他人の生き方を尊重するような考え方がもっと広まればみんな生きやすくなるのにっていうのが、改めて再確認もできました。
そして、
シンプルに差別はやめよう。
誰だって、人を傷つけていいわけがないし、傷つけたくはないはず。
っていうシンプルなメッセージがよかった。
演者さんたちもみんな素晴らしくていいドラマだったし続編もありそう。
楽しみにしてます!
余談ですがおっパンでは個人的に部下のハラニシ君、フラットで大好きでした。
会社に一人ほしい(笑)
ハラニシ君のその後も知りたい。
というわけで、『ふてほど』と『おっパン』の話でした。
どちらもそれまでの自分の生き方や思考で感想がだいぶ変わるドラマだったと思います。
まずは、人権後進国である日本でこういうドラマが地上波で放送されたことも一歩前進したのかなー。
二つの作品それぞれにいいところはあるので、両方観ると自分の中での気づいてなかった新たな気持ちとかそういうのが出てくるかもしれないです。
非常にいろいろ考えました。
今の朝ドラの『虎に翼』も女性主人公で、女性差別に絡んだ女性の話みたいなのでそのうちまとめてそのドラマも観たいと思います。
というわけで、それではまた!
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