何年かぶりに、何度目かの火車です。
やっぱり何度読んでも面白くて、作品の力強さを改めて感じました。
宮部みゆきを読んだことのない人に、
どれが一番おすすめか聞かれたらわたしは、火車を一番に勧めます。
内容もさることながら、文庫としては長めではあるけれど、
それでも1冊におさまっているということをあげたいと思います。
本好きとしてはふがいないですが、中には長すぎる!と感じる作品もありますが、
この1冊を読めば、次の長い作品につながるだけの魅力を感じていただけると思うので。
火車のストーリーをざっくり説明すると、
妻を事故で失い、小学生の息子一人を育てる休職中の刑事が遠い親戚の青年に、
突然失踪した美しい婚約者を探してほしいと頼まれて、
失踪人探しをするというお話です。
時代背景的にはちょっと古くて、初版の発行は1992年です。
読んだ感覚では、もっと古い時代のように感じました。
追う男、追われる女、ページをめくるごとに解き明かされていく様々な謎。
伏線の張り方も丁寧ですし、推理小説としてのまとまりも見事だと思います。
ストーリーの重要な軸として描かれるクレジットカードなどによる自己破産問題も、
時代的にちょっと古さはありますが、
非常に興味深くわかりやすく書かれています。
そして、彼女の作品の魅力のひとつである人物描写の細かさも、
世界観にハマれる要因だと思います。
それぞれの登場人物の生身の人間らしさ、醸し出される生活感。
脇役の人物設定にも一切の妥協はなく、リアルにそこに生きてる感じがします。
素晴らしいストーリーと、はっきり浮かび上がる人物描写だけに実写化したくなる気持ちもわかりますが、
その細かさゆえ、なかなか大成功と言える実写化はあまりないと思います。
先日も模倣犯のドラマをやっていましたが、頑張っているけどなんか違うと思ってました。
って、話がそれてしまいました。すみません。
この作品も読んだ人でそれぞれ持った感想はもちろん違うと思いますが、
わたしは、作中の登場人物の女性たちの人生への理不尽さに対する叫びが聞こえてくるような気がしました。
家庭で注がれる愛情の量、経済的な余裕、生まれ落ちる土地、さらには親から受け継がれる性格や容姿にいたるまで。
絶対に親を選んでこの世に生まれてはこられないという誕生した時から始まる不平等さに、
『わたしにだって幸せになる権利はある!』という強い思いに突き動かされる気持ちが伝わってきて、心が痛みました。
特にメイン登場人物である失踪した美しい婚約者は、静かに静かに叫んでいました。
年を重ねてくると、ある程度自分の人生をどのあたりで折り合いをつけるのか決める時がやって来ますが、
どこで折り合いをつけるか、自分の人生をまるごと受け入れるかが難しいのは、よくわかります。
若いときは、誰よりも幸せになるためにもがくのが普通でしょう。
もがく女性の生きざまを静かに描く火車。
また何年後かに読んだらいまとは違う感想を抱くかもしれませんね。
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