前評判が世界的に酷評の嵐だった『キャッツ』の映画版。
日本でも先行で観た人たちの感想が最悪でした。
わたしが目にしていた感想はこんな感じ。
・人面猫のホラー映画
・幻覚を見ているようで意味がわからない
・お金を払っても見たくない
・人生でもう二度と観たくない映画
・生々しく扇情的な表現が散見される・・等々
そもそも、公開前の映画にこんなに感想が溢れることがあるのか、と今になっては若干疑問に思えてくる部分もあります。
元々『CATS』のミュージカルが大好きで、映画の前売り券も買っていて楽しみにしていたわたしですら、その悪評の数々に「どんな感じか確かめてくるわ(笑)」っていうスタンスで臨んだのですが、いざ観てみたら、わたしは超大満足で、リピートしたいほど。
前述の感想を本当に一個も思わなかったのです。
個人的には全然思いませんでしたが最後のところ以外は、まぁ、予備知識がなければそう思う人もいるかなぁ・・と思わないこともなかったですが、エンドロールの最後の最後まで、目を凝らしてみてたけど扇情的な部分は見当たらず、真剣にこの週末悩んでしまいました。
一緒に映画を観た人はキャッツの知識はほとんどゼロ状態でしたが、二人してひざ詰めで話し合ったけど、「マジでわからない・・」となってしまったのです。
”野良猫たちが恋に落ちてその辺でなんやかんや”を予想していたわたしは肩透かしをくらった感すらありました。
百聞は一見に如かずとはいえ、どうしてこうも世間とわたしの感想が剥離してしまったのか。
CATSを観てからはそのことで頭がいっぱいだったので、わたしのCATS歴を踏まえつつ今回の映画の見どころを下記に書いていきたいと思います。
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今回の『キャッツ』の監督は、トム・フーパーというロンドン出身の映画監督です。
今までの作品は『英国王のスピーチ』、『リリーのすべて』、そしてミュージカル『レ・ミゼラブル』と、いい意味で非常に真面目な作風が持ち味の監督です。
その監督が、ロンドンが舞台のミュージカル『CATS』を映像化。
今回の映画の失敗はは監督の力量不足と言われてもいますが、 持ち味である監督の真面目さがキャッツのミュージカルとしての楽しさを取っ払ってしまった感は多少は否めませんが、その真摯さで監督がCATSに向き合った結果、CATSの最大の魅力であるダンスと音楽は充分に楽しめる映画でしたし、CATSに対するリスペクトと愛はものすごく感じました。
CATSに対する酷評を目にしていた時のわたしのイメージは、舞台を変な風にこねくり回さないと、卑猥にはならないはずなので、舞台と剥離していて猫たちが喋りまくったり、ストーリーが加えられていると思っていたのですが、良くも悪くも舞台のまんま。これが、逆に初見の人に衝撃を与えたんだろうなとは思います。
ここから、わたしとミュージカル『CATS』の話をさせてもらいますので、興味のない方は、長いため読み飛ばしてもらって大丈夫です。
わたしが最初に劇団四季の『CATS』を観に行ったのはおそらくキャッツシアターなるものが札幌にあった時代だと思います。
今のCATSのシアターもそうだと思うのですが、当時のキャッツシアターはその名のとおり、ミュージカル『CATS』専用のシアターで、猫たちが住む空き地風のコンセプトで客席や舞台装飾がなされています。
ゴミや捨てられたおもちゃなどが猫から見たサイズで作られ、劇場に入った瞬間からCATSの世界観になじむように仕上げられている劇場です。
そして、舞台には役者さんたちが演じる猫たちがさまざまなところから飛び出してくる仕掛けがあって、客席も舞台と近く作られ舞台と客席が一体となって楽しむミュージカルです。
ダンス時の舞台を踏む足音なんかもダイレクトに届く感じです。
初見でそのライブ感が楽しかったわたしは、その後『CATS』を観に行くということを何度か繰り返し、次第に欲が出ていい席を求めるようになります。
CATS名物の回転席という、舞台と一体化している客席での観劇のときは、役者さんたちのお化粧や、メモリーを歌う娼婦役の役者さんがつけていたそれっぽい香水の香りが漂ってきたり温度感を感じて素晴らしかったのですが、ダンスが好きなわたしはダンス時に役者さんの足がメインになってしまうのが物足りなかったのも事実。
そして、CATSを観るのに一番いい席を編み出し、記念日に奮発してゲットしたチケットで二人でCATSを観に行きました。
わたしが編み出した良席は、回転席のすぐ後ろの通路側の席で、前にも横にも通路があり、猫たちが会いに来てくれる席でした。
あまりミュージカルに興味のない連れにアトラクション感を感じてもらおうと思ったのがあだになってしまう結果に。
連れ氏、1幕目にそんな良席で爆睡。
起こしたけど、無駄だったのでわたしは自分の観劇に集中することにしましたが、ほぼ1幕目は寝て過ごしていて、それが舞台上からも丸見えだったのでしょう。
何故かわたしが、下りてきた猫たちに超絶威嚇されるという辱めを受けたのが、生でCATSを観た最後になります・・。
あの時の演者さんたち、一生懸命演じてくれていたのに本当にごめんなさい。
そういったわけで、繰り返しになりますが、CATSは客席が演者さんと楽しむミュージカルであり、元々が『詩人の詩に楽曲をつけたものに振りをつけて舞台化』されたものなので、取り立てて物語はほぼないです。
「延々と猫の紹介だけだった」という感想を見かけたのですが、ある意味正しい。
物語ゼロも舞台化にかけて無理があると、舞踏会で年に一度特別な新しい命を授けて生まれ変われる猫を長老猫が夜明け前に選ぶというとってつけたような設定があるだけ。
なので、舞台のライブ感を映像で表現するには限界があったため、逆転の発想でしっとり感を出そうと幻想的なCGという手法が用いられたのだと思いますが、それがあだになって受けなかったんですね・・。
猫サイズで描かれた夜のロンドン、わたしは嫌いじゃなかったけどね・・。
人面猫なのは舞台もそうだし、舞台が全身タイツだからかそういうもんだという意識があり生々しさは感じませんでした。
ダンスの迫力も出そうと、足音とか息遣いとは努力はしてたと思うよ。
そして、映画版CATSの素晴らしかったところはダンスと音楽です。
特にダンス。
CATSは、ダンスの舞台なんだ。
みなさんこれにあまり言及してないけど、ダンス本当に本当に素晴らしかった!
白猫の可愛さだけ言われてたけど、彼女のルックスだけではなくダンスも絶賛してくれっ。
白猫のヴィクトリアを演じているフランチェスカ・ヘイワードは黒人でありながら、白人主義のバレエ業界においてロンドンのロイヤルバレエ団のプリンシパルになれるほどの逸材です。
その天才の踊りを大スクリーンであれだけ近く、あれだけ長い時間1400円で観られたのはコスパ高いと思った。
世界のプリンシパルすごいっ!!って大感動して泣きそうになったほど。
しかも歌もうまい。天使! って大ファンですよ。
日本のバレエ興行のビューイングだって何千円も取られるし、そもそも世界のバレリーナの踊りを見られる機会すら少ないし。
彼女の踊りの美しさを、映像に残してくれてありがとうトム・フーパー!!って祈りたい気持ちですらある。
脇を固めるダンサーたちのダンスも素晴らしく、バレエだけじゃなくて様々なダンスのジャンルが次々現れて、鉄道猫のくだりのタップは圧巻だし・・とりあえず、このメイキングを観て!!
1分でもこんなにすごいのに、映画ではダンスパートだけでかなりあるので非常に見ごたえがありました。
彼らのダンスを見られただけで、満足でした。
なかなか、ここまでのダンサーの圧巻のダンスを観る機会は少ない。
劇団四季も素晴らしいけど、これはまた一味違う。
あとは音楽ですよね。
アンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽やっぱりいいわ・・。
テイラー・スウィフトはポップスターとしての才能を充分に発揮し、真面目さに寄りがちだった映画版CATSにPOPさと華やかさを与えてくれて、非常にいいシーンだと思いました。
めちゃくちゃかっこよかったです。
楽曲も彼女にピッタリ。
そしてCATSといえば、超有名楽曲『メモリー』の持つ破壊力。
キャッツを知らなくても『メモリー』を知っている人は多いと思うんですが、CATSで泣くとすれば、物語に感動するんじゃなくて『メモリー』に感動して泣く人が多いと思うんです。
なんかよくわからないけど、泣ける曲、それが『メモリー』。
今回その、重要な役割を担ったのが『ドリームガールズ』で一躍有名になったジェニファー・ハドソン。
『ドリームガールズ』もDVDもサントラも持ってるぐらい大好きなんですけど、当時より歌が上手くなってると思った。
今回の映画のために書き下ろされた『ビューティフル・ゴースト』も超いいのに。
ツッコミどころはあるし、傑作とまではいかないかもしれないけど、わたしは充分楽しんだし、曲の合間に拍手したくてたまらなかった。
こんなに見どころがあるのに『キャッツ』は何故バカにされてるの・・?
確かに、冒頭から泥棒猫あたりが出てくるまでは若干盛り上がりに欠けるんです。
後半にかけてぐんぐん盛り上がってくるセトリなんです。
それは映画も舞台も一緒なんですが、映画は舞台と違い、客席は受け身一辺倒だから難しい部分はある。
でも、そこまで酷評される意味がわからない。
愛してる原作が崩壊しているかと思ってドキドキして観に行ったら、作り手も原作をすごく愛しているのが伝わってくる映画だったのに、監督かわいそうすぎるよ・・。
初見の人に響かなかったのは残念だけど、初見の人向けにハードルを下げて全部人に設定を変えて音楽だけ踏襲するとかやろうと思えばできたと思うんです。
それをやらなかったのは、CATSに対する愛だと思ったよ。
このインタビューを読んでほしい。
わたしは、なかなか舞台も観に行けないし、手軽にCATSを観られて大満足でした。
この思いを監督に届けられたらいいのにと思いを込めて今回、この記事を書きました。
届かないのはわかっていますが、黙っていたら酷評ばかりになってしまうし、それは辛い。
CATSのミュージカルが好きな人は、是非観に行ってみてほしいと思うし、映画に興味のある未見の方は、まず、この舞台版を観てから行くのをお勧めします。
わたしも、レンタルしたので観るの楽しみ~。
それでは、また。
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